甲府地方裁判所 昭和63年(ワ)241号 判決 1991年1月22日
原告
富岳通運株式会社
右代表者代表取締役
浅沼角夫
右訴訟代理人弁護士
古屋俊仁
同
水上浩一
被告
東京海上火災保険株式会社
右代表者代表取締役
松多昭三
右訴訟代理人弁護士
田中登
同
加藤文郎
主文
一 被告は、原告に対し、金二二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 保険契約の締結
原告は、昭和五九年八月二七日、被告との間で、原告の保有する普通貨物自動車(山梨一一あ二八四三、以下「本件自動車」という。)につき、保険期間を昭和五九年一〇月九日から昭和六〇年一〇月九日までとする自動車損害賠償責任保険契約(以下「本件自賠責保険契約」という。)を締結した。
2 事故の発生
訴外川崎光基(以下「訴外川崎」という。)は、原告の従業員であるところ、昭和六〇年五月一四日、山梨県都留市内の小形山ターミナルにおいて、本件自動車の荷台上で、荷降ろし作業中、最後の積荷である梱包されたコンデンサ盤(高さ2.2メートル、縦0.75メートル、横0.77メートル、重量三四〇キログラム)をハンドリフトに乗せて、荷台後部まで移動させてきたところ、本件自動車の荷台後部シートに右コンデンサ盤の上部を接触させて、これを運転席側に転倒させ、右作業を手伝っていた訴外上野富男(以下「亡富男」という。)を右コンデンサ盤の下敷きにして、同人を脳挫傷、脳室内出血により死亡させた(右事故を、以下「本件事故」という。)。
3 原告の損害賠償責任
原告は、本件自動車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるところ、右運行によって本件事故が発生したものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故による後記4の損害を賠償すべき責任を負担するに至った。
すなわち、本件自動車の荷台後部シートは、本件自動車の固有の装置であり、荷物の積み降ろしには右装置であるシートをまくりあげるという通常の用い方をするのであり、右シートが完全にまくりあがらない状態に本件積荷が接触して、転倒し、本件事故が発生したのであるから、本件自動車の固有の装置をその用い方に従って用いたことによって、本件事故が発生したといえる。仮に、右後部シートをまくりあげた状態におくこと自体が運行にあたるものでないとしても、本件事故の積荷は当初からハンドリフトもしくはフォークリフトで積み降ろしを予定された梱包自体に枕木等が装置されたもので、右荷物の梱包の枕木にハンドリフトのフォークを挿入し、ハンドリフトに乗せ荷台後部に移動させてきたところ、まくりあげた状態の後部シートに右荷物の梱包の上部を接触させ、発生したものであるから、右幌が装置されている荷台も本件自動車の固有の装置であり、右シートをまくりあげた状態の下をハンドリフトを使用して積み降ろしを当初から予定している荷物をハンドリフトに乗せて移動させ荷降ろしする作業は、本件自動車の固有の装置である右幌付き自動車の荷台をその目的に従ってかつ通常行われる方法により使用したものである。また、本件自動車は運搬用幌付きトラックであり、荷積み荷降ろしと走行を反復する形態で利用されるものであるところ、本件事故は、名古屋、甲府ターミナルと順次荷積み荷降ろしを繰り返し、その後本件事故現場である小形山ターミナルに着いて直ちに荷降ろしを始め、その荷降ろし作業中に発生したものであり、右作業終了後には本件自動車を車庫に移動させる走行が予定されていたものであって、前後の走行との連続性が認められるものである。よって、本件事故は、運行によって生じた事故といえる。
4 損害
(一)亡富男の逸失利益 二二二五万四八九一円
亡富男は、本件事故当時五〇歳で、年収額は二八三万五〇〇〇円であったところ、本件事故に遭遇しなければ、六七歳までは稼働可能であったのであるから、生活控除率三五パーセント、中間利息控除につきホフマン方式を採用して右の間の逸失利益の現価を算定すれば、次の計算式のとおり、二二二五万四八九一円となる。
2,835,000×(1−0.35)×12.077=22,254,891
(二) 慰藉料 二〇〇〇万円
本件事故による亡富男の慰藉料は、二〇〇〇万円とするのが相当である。
(三) 相続
亡富男の妻である訴外上野律江と亡富男の子である訴外上野めぐみ、同上野剛、同上野隆志(以下「訴外律江ら」という。)は、前記(一)(二)の損害賠償請求権を法定相続分に従いそれぞれ相続した。
(四) 葬儀費用 九〇万円
亡富男の葬儀費用として九〇万円が相当である。
(五) 損害のてん補
訴外律江らは、本件事故による損害に対するてん補として、労災保険から一四四六万五七四一円の支払いを受け、これを法定相続分の割合でそれぞれ損害に充当した。
5 被告の自賠責保険金支払義務の発生
原告は、昭和六二年二月一二日、訴外律江らとの間で、本件事故による亡富男の死亡に伴って生じた前記損害総額から一五パーセントの限度で過失相殺し、さらに訴外律江らが労災保険から支払を受けた前記一四四六万五七四一円を控除した残損害額二二二一万五九一七円(訴外上野律江に対し一一一〇万七九五八円、訴外上野めぐみ、同上野剛、同上野隆志に対し各三七〇万二六五三円宛)の支払義務を認め、右損害金の内二二〇〇万〇〇〇一円(訴外上野律江に対し一一〇〇万円、訴外上野めぐみ、同上野剛、同上野隆志に対し各三六六万六六六七円宛)を原告が訴外律江らに対し支払い、右支払いを了したときはその余の債務を同人らが放棄する旨の裁判上の和解(以下「本件和解」という。)をした。
原告は、昭和六二年二月末日、本件和解に基づき、損害額二二〇〇万〇〇〇一円を訴外律江らに支払った。
よって、被告は、原告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)一五条に基づき、原告が本件事故の損害賠償として訴外律江らに支払った二二〇〇万〇〇〇一円に相当する保険金を支払うべき義務がある。
6 結論
したがって、原告は、被告に対し、本件自賠責保険契約に基づく保険金の内二二〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和六三年八月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、訴外川崎が、昭和六〇年五月一四日、山梨県都留市内の小形山ターミナルにおいて、本件自動車の荷台上で、荷降ろし作業中、積荷が転倒し、右作業を手伝っていた亡富男がその下敷きになって死亡したことは認め、その余は不知。
3 同3のうち、原告が本件自動車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた者であることは認める。本件自動車の後部荷台シートがそのまくりあげた部分を含めて、自動車の固有の装置であることは争わない。その余の主張は争う。
4 同4の事実のうち、亡富男の年収額が二八三万五〇〇〇円であること及び訴外律江らが労災保険から一四四六万五七四一円の支払いを受けたことは認め、その余は不知。
5 同5の事実は不知、同5、6の主張は争う。
三 被告の主張及び抗弁
1 本件事故は、運行によって発生したものではない。
すなわち、原告主張のように、幌乃至シートのまくりあげた状態をもって運行と見ると、本件自動車の後部荷台シートがそのまくりあげた部分を含めて、自動車の固有の装置であることは争わないが、その使用と本件事故との因果関係は認められない。本件事故が、原告主張のような経緯で発生したとしても、後部シートのまくりあげ行為自体によって発生したものとはいえず、右部分に荷降ろし中の積荷が接触して転倒し、積荷が人身事故を惹起させたものであって、荷台後部の開口部分に積荷を通過させようとしたことによって発生したものである。したがって、本件事故の発生は間接的な関係であり、幌乃至シートの操作使用との相当因果関係は認められない。
また、幌付きの荷台全体を固有の装置としても、ハンドリフトを使用しての荷降ろしが運行に該当するかについては争う。
2 (他人性)
亡富男は、本件自動車の荷台において、転倒した積荷を押しまたは支えるなど荷降ろし行為を行っていた訴外川崎を手伝っていたものであるから、荷降ろしの補助者であり、当該運行に関して運転補助者と認められるから、自賠法三条の他人には運転者は含まれず、右運転者には運転補助者も含まれると解される以上、運転補助者である亡富男には他人性は認められない。よって、右他人性を前提とする原告の運行供用者責任は発生しない。
3 (免責)
仮に、幌乃至シートのまくりあげ行為を運行と見て、右行為との相当因果関係が認められるとしても、まくりあげ行為自体に瑕疵があるわけではないから、自賠法三条但書の免責が成立する。すなわち、本件事故は、ハンドリフトを使用して荷降ろし中の訴外川崎が荷台後部の幌乃至シートをまくりあげた部分の高さ等に注意せず積荷を搬出しようとしたことによるもので、まくりあげ行為自体には問題はなかった。
4 (債務不履行責任に基づく支払い)
原告が、前記裁判上の和解に基づいて支払った損害金は、右訴訟における主位的請求である債務不履行責任に基づくものである。
よって、被告には保険金の支払義務はないというべきである。
5 (過失相殺)
仮に、原告の運行供用者責任が認められるとしても、亡富男は、背の高い、やや不安定な本件積荷が荷降ろしされている直近の位置にいたため本件事故に遭遇したのであり、右積荷が本件荷台後部をそのまま通過することが困難で、後部シートに接触した場合には転倒する危険があることを予見しうるにもかかわらず、危険な位置に身をおいた過失がある。
四 被告の主張及び抗弁に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張及び抗弁1乃至4は争う。
2 (他人性について)
本件自動車の荷積み荷降ろし等総ては、本件自動車の運転手である訴外川崎の仕事であり、第三者と共同作業しなければできない作業ではなく、訴外川崎は訴外小俣清(以下「訴外小俣」という。)に手伝ってもらう意思は有していたが、これも作業量を軽減するだけのものであり、訴外小俣の作業がどうしても必要なものではなかったし、本件荷降ろし作業について、訴外川崎以外のものに手伝ってもらい速やかに終了させなければならない特別の事情もなかった。さらに、亡富男は、本件自動車の荷降ろし作業に従事する旨特に命じられたものではなく、本件自動車に同乗してきたものでもなく、訴外川崎の指示で本件荷降ろしをしていたものでもなく、共同作業を分担する作業員でもない。そして、訴外川崎は、亡富男が入社したてのため同人との面識もなく、本件作業を手伝ってもらう意思もなかった。自賠法三条の他人性が否定される運転補助者とは当該荷降ろし作業が運転者と共同でなければできない一体をなす作業で、それぞれその作業を分担してなすものであるところ、本件作業は運転者が単独でできる作業であり、そもそも運転補助者は存在しないものである。
よって、亡富男は自賠法二条にいう運転補助者とはいえない。
3 被告の主張及び抗弁5は認める。
第三 証拠<省略>
理由
一本件事故の発生
請求原因2(事故の発生)のうち、訴外川崎が、昭和六〇年五月一四日、山梨県都留市内の小形山ターミナルにおいて、本件自動車の荷台上で、荷降ろし作業中、積荷が転倒し、右作業を手伝っていた亡富男がその下敷きになって死亡したことは当事者間に争いがない。
右争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
訴外川崎は、昭和四三年五月頃から原告に勤務し、その従業員として昭和六〇年当時原告小形山ターミナルにおける路線乗務及び荷役作業の作業主任で主として運転業務をしていた者であるところ、同年五月一四日、一人で当日名古屋から甲府を経由して荷物を満載している本件自動車を運転してきて、同日午後八時頃山梨県都留市内の小形山ターミナルに到着し、幌付きの一一トントラックである本件自動車の最後部を右自動車の荷台より約一〇センチメートル低い高さのトラックターミナルホームに接するように駐車し、直ちに右荷台(荷台の床から天井までの高さ二三一センチメートル)上で、右ターミナルの荷降ろしの作業員らと荷降ろし作業を始めた。そして、右川崎が、同日午後九時一〇分頃、最後の積荷で右荷台の最前部中央にあった木枠(幅七〇センチメートル、奥行七七センチメートルで下がハンドリフトやフォークリフトのフォークが差し込めるよう高さ一九七センチメートルの木枠の下に一五センチメートルの足が付いているため全体の高さが二一二センチメートルのもの)で梱包されたコンデンサ盤(高さ二〇二センチメートル、重量三四〇キログラム)である積荷(以下「本件積荷」という。)を荷降ろし作業員である訴外小俣の協力を得て、ハンドリフトに乗せ約二センチメートル程持ち上げて荷台内を荷台後部に移動し、訴外川崎が同車の屋根にまくりあげた幌の最後部シートの下を通り、本件自動車の荷台とターミナルとの間に設置された鉄板(幅一五〇センチメートル、長さ六〇センチメートル)上に前記ハンドリフトの車輪の一部が乗り、本件積荷が右鉄板上の傾斜に差しかかったとき、右積荷の上部が本件自動車の前記荷台最後部のシートに引っ掛かるなどして、荷台前方に転倒し、右荷台内で本件積荷の移動にあたり手を添えて押すなどしていた原告の小形山ターミナルにおける積み降ろし作業専門の作業員である亡富男をその下敷きにし、脳挫傷、脳室内出血により死亡させた。
二そこで、原告の自賠法三条の損害賠償責任の有無を判断する。
1 原告が本件自動車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないので、本件事故が本件自動車の運行によって生じたものといえるか否かを判断する。
本件自動車は、前記認定事実のとおり、幌付きの荷台がある貨物自動車であり、構造上、右荷台に荷物を積載し、その積荷の積み降ろしは、荷台最後部の幌をまくりあげ後部出入口から出し入れすることによって行うことを予定しているものである。したがって、右幌付きの荷台は、本件自動車の固有の装置といえる。本件事故は、積荷を満載して名古屋から甲府を経由して本件事故現場であるトラックターミナルホームに到着した本件自動車の右荷台上において、運転手らによって到着後直ちに行われた本件自動車の積荷の荷降ろし作業中に、運転手が右荷台の最後部のまくりあげられた幌に荷台上の本件積荷を接触させるなどして、荷台内で荷降ろし中の右積荷のバランスを失わしめ転倒させたために発生したものであり、本件荷降ろし作業は、右幌付きの荷台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきである。すなわち、本件事故は、本件自動車を当該装置の用い方に従い用いることによって生じたものということができる。したがって、本件事故は、本件自動車の運行によって生じたものであると認められる。
2 次いで、被告は、亡富男が本件事故時、本件自動車の荷降ろし作業を行っていた運転手の訴外川崎を右荷台上で手伝っていたのであるから、荷降ろしの補助者で当該運行に関して運転補助者と認められ、亡富男の他人性は否定されると主張するので、以下、亡富男が自賠法三条の「他人」に当たるか否かについて判断する。
自賠法二条で自賠法上「運転者」とは他人のため自動車の運転の補助に従事する者も含まれ、自賠法三条の「他人」とは自己のために運行の用に供する者および当該自動車の運転者を除くそれ以外の者と解されるから、運転補助者は自賠法三条の他人から除かれ、同条の趣旨から、この運転補助者は、他人のため、補助的に運転を支配する者と解するのが相当である。前記認定事実によれば、亡富男は、本件事故現場のターミナルにおける積み降ろし作業専門の作業員であって運転手ではなく、本件自動車に同乗して積荷の積み降ろしに従事していたものでもなく、作業主任で運転手である訴外川崎が行っていた本件荷降ろし作業において、本件事故当時、本件積荷の後方で手を添えて押す程度の補助作業しかしていなかった。したがって、本件自動車の運転を補助的に支配するものとはいい難く、自賠法三条で除外される運転補助者とはいえない。よって、本件事故において、亡富男は、自賠法三条の「他人」に当たる。
3 さらに、被告の自賠法三条但書の免責の主張は、まくりあげ行為自体を運行とした場合を前提とするが、前記認定のとおり、右まくりあげ行為自体が運行と解されるものではないし、本件自動車の幌付き荷台上での荷降ろし作業につき、運転者である訴外川崎が注意を怠らなかったとは認められない。したがって、被告の免責の抗弁の主張は採用できない。
4 また、<証拠>によれば、原告と訴外律江らとの間での本件和解は、訴外律江らが原告に対し主位的に債務不履行責任を主張した訴訟において、本件事故による損害賠償金債務の支払い義務を認めたものであることが認められるけれども、同人ら間の右訴訟においては、被告が自認するように自賠法三条の運行供用者責任をも主張していることが認められ、原告が訴外律江らに対し支払った損害賠償金が、債務不履行責任に基づくものであるとは認められない。
以上のとおり、原告には、自賠法三条の規定に基づいて、本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任があると認められる。
三そこで、本件事故による損害賠償額について判断する。
1 逸失利益 二二二五万四七〇七円
亡富男の年収額が二八三万五〇〇〇円であることは当事者間で争いがなく、<証拠>によれば、亡富男は、昭和九年九月二五日生まれの男子であり、死亡当時五〇歳であったことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、亡富男は、本件事故で死亡しなければ、以後六七歳まで一七年間稼働可能であり、その間前記年収と同額の収入を得られたものと推認することができ、右推認を左右するに足りる証拠はないから、右額を基礎に生活費として三五パーセントを控除したうえ、新ホフマン方式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡富男の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二二二五万四七〇七円(一円未満切捨)となる。
2,835,000×(1−0.35)×12.0769=22,254,707
2 慰藉料 二〇〇〇万円
本件事故態様その他本件審理に顕れた諸般の事情を考慮すると、亡富男の本件事故による死亡慰藉料は、二〇〇〇万円をもって相当と認める。
3 相続
<証拠>によれば、訴外上野律江が亡富男の妻であり、訴外上野めぐみ、同上野剛、同上野隆志が亡富男の子であること、亡富男の死亡により、訴外律江らが亡富男の右損害賠償請求権を法定相続分に従い、相続取得したものと認められ、右認定に反する証拠はない。
4 葬儀費用 九〇万円
弁論の全趣旨によれば、亡富男の葬儀が行われたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右葬儀費用としては九〇万円が相当である。
5 過失相殺
ところで、亡富男は背の高い、やや不安定な本件積荷が荷降ろしされている直近の位置にいたため本件事故に遭遇したのであり、右積荷が本件荷台後部をそのまま通過することが困難で、後部シートに接触した場合には転倒する危険があることを予見しうるにもかかわらず、危険な位置に身を置いた過失があることは当事者間に争いがないから、本件事故による亡富男の損害について一割五分の過失相殺(減額)をするのは相当と認める。
よって、前示の損害額の合計四三一五万四七〇七円から過失相殺として一割五分を控除すると、残額は三六六八万一五〇〇円(一円未満切捨)となる。
6 右のとおり、本件事故により生じた損害総額は合計三六六八万一五〇〇円となるところ、訴外律江らが本件事故により労災保険から一四四六万五七四一円の支給を受けたことは当事者間に争いがないから、右損害額からこれを控除すると、残額は二二二一万五七五九円となる。
四本件自賠責保険契約の締結の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は訴外律江らに対し、本件事故による損害賠償金として二二〇〇万円を支払ったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。よって、被告は、原告に対し、本件自賠責保険契約に基づき二二〇〇万円の保険金を支払う義務がある。
五以上によれば、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官比佐和枝)